九州あご文化推進委員会

委員会からのお知らせやあごにまつわるイベント情報

あご便り 5号

長崎県平戸市には独自のあご食文化があります。今回は味わい深い郷土料理を探しに地元の民宿を訪ねてきました。

平戸の海が育んだ素材本来の味を楽しむ

新鮮なあごが手に入る平戸では、刺身やすり身など、その時期でしか味わえない料理に出会える。
「民宿とびうお」を営む林二男さん・みどりさんご夫妻から、平戸ならではのおもてなしの心を学んだ。

年間を通してさまざまな海産物が水揚げされる平戸は、日本有数のあごの産地としても知られ、昔ながらの港町の風景が広がる。真っ赤な平戸大橋を背に、漁を終えた船が港へと戻っていく姿は圧巻だ。そんな平戸の海沿いに佇むのが「民宿とびうお」。林二男さん・みどりさんご夫妻が40年営んでいる民宿で、釣りや観光だけでなく、あごをふんだんに使ったみどりさんお手製の絶品料理を目当てに、全国から多くの宿泊客が訪れる。

あごは9月から10月初旬頃までの限られた期間でしか獲れず、新鮮なものはその時にしか味わえない。そのため、産地ならではの個性が光るあご料理が多く生まれる。魚介や野菜を使った寄せ鍋「いりやき」もその一つで、使う具材や味付けは地域によって異なるが、平戸ではあごを100%使ったすり身を入れる。まず、あごを3枚におろしてすり身にし、塩や砂糖で味付けする。あごは白身の魚だが、すり身にすると濃い茶色へと変化する。この色こそ、自然のまま、まじりっけなしの美味しいすり身の証だという。土鍋に湯を沸かしたら、すり身を入れてだしをとる。だしをとったすり身は、そのまま具材として使う。このだしを醤油と塩で味付けし、ねぎや白菜、油揚げなどの具材をたっぷりと入れて煮込む。そして食べる直前に湯がいた素麺を入れるのも平戸流。野菜のうまみが溶け込んだあごだしによく合う。

鮮度が落ちるのが早く、生で出回ることが少ないあごを、刺身で食べられるのも平戸の魅力だ。特に「民宿とびうお」は港にほど近く、魚市場を通さず漁師から直接買い付けるため、新鮮なあごが味わえる。身はもちっとした食感で食べ応えがあり、ほんのりと甘く濃いうまみが口に広がる。「お醤油で食べるところもあるけど、平戸では辛子酢味噌で食べるんよ」とみどりさん。あごの脂の上品な甘みと、辛子酢味噌のピリッとした風味が絶妙にマッチし、“なるほど!”とうなる納得の味わい。その他、塩と胡椒で下味を付け、薄衣でさっくりと揚げたあごの天ぷらや、塩漬けして乾燥させ、あぶった塩あごなど、同じ魚でも調理法によって味わいがガラリと変わり、食べ飽きることがない。平戸の人々にとって、あごはだしをとるのはもちろんのこと、主菜にもおやつにも、おつまみにもなる大切な存在なのだ。みどりさんが出してくれる料理の一つひとつには、「せっかく来てくれたのだから、平戸の美味しいあごでもてなしたい」という温かな思いがつまっている。

民宿から数分歩くと、二男さんの父が創業した加工会社「林水産」があり、直売所では、昔ながらの製法で作られた焼きあごや干物などを購入できる。二男さんは宿を営むかたわら、加工場での作業も行っている。最近は若い世代や家庭での魚離れが進んでいると感じるそうで、「孫たちに刺身を出してもあんまり食べん。肉はいくらでも食べるけど」と寂しそうに笑う。「北風が吹いたら漁開始のサイン」と言われるように、季節風が重要な役割を担うあご漁。今年はなかなかいい風が吹かず、あごの漁獲量は例年に比べて少ないそうだ。温暖化が水産業に与える影響も懸念されている。これからもずっと食べられるものではないのかもしれない。だからこそ、海の恩恵に感謝して、平戸のあご料理をぜひ一度味わってみてほしい。