九州あご文化推進委員会

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あご便り 6号

トビウオの産地として名高い屋久島では食文化も独自の発展を遂げてきました。今回は名物兄弟が営む2軒の店を訪ねて屋久島の“今”と“これから”を見つめます。

限定的に食べられていた魚から地産地消のシンボルへ

寿司や姿揚げなど、他の地域にはないトビウオ料理が自慢の屋久島。食を通して島の魅力を伝えようと真摯に取り組む人々に出会った。

1年中トビウオが獲れる屋久島では、季節を問わずさまざまなトビウオ料理を楽しむことができる。あごと呼ばれるのは小型のトビウオだけで、オオトビやチュウトビなど、体長30〜50cmほどの中〜大型のトビウオを食べるのが一般的だ。昔は港のある安房地区だけで消費されることが多く、島内で出回ることはあまりなかったが、近年トビウオ食の認知度が上がったことや、地産地消の意識が高まったこともあり、より広い地域で食べられるようになった。

屋久島で獲れるトビウオは11種類にものぼり、それぞれ特徴やベストな調理法も異なる。主にすり身に使うのはセミトビで、特に味がいいのはジキトビというように、地元の料理人達はトビウオの個性を熟知している。

屋久島の漁師一家に育った渡邉力さん・千護さん兄弟は、ともに島外で料理人として修行を積んだ。地元に戻り、一時ガイドの仕事に就いた弟の千護さんは、屋久島の魅力をきちんと伝えられている店があまりにも少ないことに驚いた。地元の食材を使う、気持ちのいい“いらっしゃいませ”で客を迎えるなど、当たり前のことができていないと感じた。生まれ育った屋久島をもっと元気にするために、自分にできることは何か。使命感に駆られ、19年前に兄弟で開いたのが「寿しいその香り」だ。自らも漁に出る彼らは、新鮮な食材の追求に余念がない。看板メニューは、トビウオをはじめとした地魚を存分に味わえる「地魚のにぎり」と「地魚刺身5点盛」。大ぶりのネタはどれも絶品で、キュッと身が締まり、ほどよく脂がのったトビウオは、上品な味わいながら食べ応えがある。

そして今から7年前、2店舗目となる「地魚料理 若大将」を開店。以来、「寿しいその香り」は力さん、「地魚料理 若大将」は千護さんが切り盛りし、兄弟で切磋琢磨しながら屋久島を盛り上げてきた。「地魚料理 若大将」では、白米が見えないほど海鮮を敷き詰めた茶漬けや、野菜をたっぷり加えたすり身を香ばしく揚げた“つきあげ”など、創作性に富んだトビウオ料理を味わうことができる。また、屋久島の新たな名物として今注目されているのがトビウオの燻製だ。中でも、トビウオ漁師・田中さんが手がける香り高い燻製は「地魚料理 若大将」でしか食べられない。燻材にタンカンとポンカンの枝を使い、“100%屋久島産”にこだわっている。

「外から戻ってきたからこそ、見えるものがある」と千護さんは語る。豊かな自然に恵まれ、世界遺産の島としても知られる屋久島だが、観光地として、また住環境的にも、まだまだ課題は多いという。3人の娘の父親でもある千護さんは、魅力ある屋久島を子ども達に託したいと、町議会議員としての活動も行っている。またトビウオ漁の漁師が年々減っている現状にも懸念を抱いており、長く働ける環境づくりに取り組んだり、有志とともにトビウオを使った缶詰の開発も進行中だ。一昔前は安房地区で限定的に食べられていたトビウオが、今や屋久島の未来を担うシンボルになっている。