
あご便り 8号
2023年10月13日
あご漁が盛んな長崎県生月島の舘浦漁港では革新的なSDGsの取り組みが行われています。美しい海とその恵みを未来につなぐために今、私たちができることとは?

江戸時代から続くあご食文化がこの先の200年も続いていくように
海岸の清掃活動から国内初の漁網リサイクル施設まで。豊かな海を守るために奔走する舘浦漁協の鴨川組合長に話を聞いた。

青く澄んだ水面を軽快に跳ねるあごの姿は、生月島の秋の風物詩。しかし近年、この美しい風景に不釣り合いなポリタンクやペットボトルが、日々海岸に打ち寄せる。舘浦漁協では地元住民にも協力を仰ぎながら、漂着ごみの回収活動を毎月行っている。取り組みを始めたのは、鴨川さんが組合長に就任した4年前。それまでは年に一度大掛かりな清掃を行っていたが、悪化の一途をたどる状況に。これ以上目を背けることはできなかった。「きれいにしても数ヶ月後には元に戻ってしまう。でもやり続けることで、その量も徐々に減ってきたんですよ」と鴨川さんは話す。

海岸には漁網も大量に流れ着く。まき網漁の盛んな舘浦漁港でも年間およそ数十トンの廃漁網が出るため、「漂着ごみだけでなく、自分たちが使った網にまで責任を持ちたい」と、漁網を資源に変える事業に乗り出した。役目を終えた漁網のうち、ナイロン製のものはリサイクル技術が確立されているが、ポリエステル製のものは補強材の樹脂を配合しているため、難易度もコストも高く、多くが産業廃棄物として埋め立て処分されている。そこで大手メーカーとタッグを組み、網表面の樹脂を効率的に取り除くシステムを導入した国内初の施設を建設。技術の確立とCO2削減を目指すとともに、漁網由来の製品開発も進めている。最終的には漁網に戻し、循環型漁業を実現するのが目標だ。

そんな鴨川さんの好物は、あごを塩に漬け込んで干した「塩あご」。おつまみにもご飯のお供にもなる一品だ。「海の環境を守るのが漁業者の使命」と話す鴨川さんの思いを、生月島の豊かな食文化がより一層強くさせる。舘浦漁港のすぐそばに店を構える「お食事処 ひといき」では、水揚げされたばかりの新鮮な魚介が味わえる。地元女性が中心となって切り盛りしており、「うちの一番の売りは看板娘よ!」と茶目っ気たっぷりに迎えてくれる。あご料理も自慢で、程よく脂ののった刺身は甘味があり、うどんは焼きあごのだしがしっかり効いている。料理も接客も温かく、おもてなしの心に満ちている。

江戸時代から続くとされる生月島のあご食文化だが、家々でだし用のあごを焼く光景も、今ではすっかり見られなくなった。「作り手が年を取ったからね。93歳になるうちの母も、もう焼かなくなりました」と鴨川さんも寂しそうに笑う。それでも、息子の好物である塩あご作りは続けているという。食文化とは、人を思う心が紡いだもの。自然の恵みを受け取り、温かな思いを伝えていくことが、真の意味でのSDGsと言えるのかもしれない。海岸の清掃後にはみんなでバーベキューをするなど、若い世代との新たな交流の場が生まれている。漁網のリサイクル事業が全国的に注目されることで、技術の進化もさらに期待できるだろう。時代の変化を見据えた舘浦漁協の挑戦が、食文化を継承する鮮やかな一歩へとつながっている。

「お食事処 ひといき」の横には漁協直営の販売所もあり、新鮮な魚が購入できる。
※「お食事処 ひといき」のあご料理は、仕入れ状況により提供できないことがございます。ご来店の際はお問合せください。
取材協力:
舘浦漁業協同組合[長崎県平戸市生月町舘浦107-2]
お食事処 ひといき[長崎県平戸市生月町南免4432-42]